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懐かしの誌面

「PRETTY DOG HOUSE(プリティ ドッグ ハウス)」 岩城圭子さん

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ペットショップで一目惚れした一匹のプードルとの出逢い。
初めてのドッグショーで感じたトリマーへの憧れ。
自分の気持ちを信じて前進あるのみのパワフルウーマン、岩城さんの物語。

 

■土佐道路にそびえ立つドッグビル
 高知市城山町の土佐道路沿いにそびえ立つ、何やら気になる4階建ての鉄筋コンクリートビル。店名の隣にはプードルのイラストが見える。ビル型のペットショップ? 頭の中にいくつもの「?」を浮かべながら店内に入ると、最初に出迎えてくれるのは犬用シャンプーの甘~いニオイ。そして緑フレームの眼鏡をかけ、斬新なオレンジ色の髪をした女性の登場! 一見しただけで独自の道を歩んでいることを感じられる彼女こそが、この店「プードルファンク」のオーナー、岩城圭子さんだ。
 今年10月にオープンしたこの店は、犬のシャンプー&カット、爪、耳掃除などのグルーミングと、仔犬やグッズ販売をするペットショップ。さらに緊急の時に対応してくれるペットホテルと、2年制のグルーミングスクールも備えた複合ドッグビルなのだ。「店名通り、とにかくカットを可愛く仕上げたいし、可愛い仔犬を販売したい。別にプードルだけじゃなくて、あらゆる犬種を扱っています」。では、なぜ店名にプードルと付くのか? もちろんそこには、岩城さんの夢が詰まっているのだ。

■小型犬との生活
12040136541s.jpg 物心ついた時から、実家には犬やら猫やら常に何かしらのペットがいた岩城さん。では犬派か猫派かと聞くと... 「猫は『おいで』って呼んでも来ないし、気まま勝手にバーッといなくなる。その点、犬は飼い主オンリーだから犬の方が好きなんです」。というわけで32歳の時、友人からポメラニアンを3万円で買わないかという話が来たときはもちろん大喜び。ところが結局ポメラニアンは別の人に買われていってしまう。「私はもう、飼う気満々だったんです。それがダメになったから、もうペットショップに走りましたよね(笑)! 店に行くとプードルしかいなかったんですが、小型犬が欲しかったから一目惚れして、8万円で購入しました。もう可愛くって、本当に嬉しかったですね」。今まで飼ってきた犬は全て家の外で飼う中型以上の犬。特に猫を飼ってからは、室内で飼える小型犬が欲しいと思っていた岩城さんは、このプードルに強いインスピレーションを感じ、早速家に連れて帰る。こうして生後1ヶ月のプードル「マック」が新しい家族の一員に加わることになった。

■仔犬を飼うことで学んだこと
 子供の頃、家で飼っていた4匹の犬は全て丈夫な雑種だったため、それまで犬を獣医さんに連れて行くという発想がなかった岩城さん。しかしマックを飼うことにより毎年1回のワクチン注射など、犬を育てていく上での色んな知識を自然と身につけていった。当時、岩城さんの長女、沙弥香ちゃんは小学校1年生、長男の史晃くんは幼稚園の年中さん。そんな幼い子供にじゃれられるだけでストレスを感じ、下痢を起こしてしまうマックを抱え、病院に1ヶ月通い続けたこともある。しかし世話をすればするほどマックへの愛情は大きくなる一方。「自分の子供みたい。目の中に入れても痛くないほど可愛いかったですね」。自分がいないとダメになる、そんな小さくてか弱い存在に教えられたことは、命の尊さだった。

■初めてのドッグショー
 そしてマックと暮らし始めて3ヶ月経ったある日のこと。ペットショップからマックを「ドッグショー」に出してみないかという話が舞い込んでくる。ドッグショーとは人間で言うミスコンテスト。全犬種がベビーの部(生後4ヶ月~6ヶ月未満)、パピーの部(6ヶ月以上~8ヶ月未満)、成犬の部(8ヶ月以上)に分かれ、さらにオス、メスで別々に審査を受ける。ジャッジにより犬の骨格、構成、歯並びチェック、そして実際に走らせての前肢と後肢の動き方、サイドの動きチェックで、1頭あたり2~3分。いかに健康管理が出来ていて美しく動けるかを競い、成犬の部でチャンピオンになると血統書に記録される、誇り高いショーなのだ。「マックが生後4ヶ月の時に、ベビーだし、成犬よりは審査が甘いから出してみませんかと誘われました。大津の会場でしたが、150人は集まってたかな。犬も、それを引っ張るハンドラーもすごい脚光を浴びる、それまでの私が知らないような華やかな雰囲気でした。見たこともない色んな種類の犬がたくさんいて、活気と熱気に溢れていたんです。それで、その面白さにハマッてしまったんですよね」。そして岩城さんは、審査前に行われる最後のセットアップシーンに釘付けになる。その犬の美しさを最大限に引き出すために、ドライヤーで毛を立てたり、華麗なハサミさばきでカットするトリマー達。特にショー用のカットともなると、普段お願いしているカットとは技術のレベルも大きく違う。ピリピリとした緊張感溢れる空気の中、真剣な眼差しで犬と向き合うトリマーの姿を目の当たりにした時、岩城さんに「トリマーになりたい! 自分でカットした犬でショーに出たい!」という新しい目標が誕生した。丁度、10年間勤めていた会社を辞め、事務のアルバイトをしていた時。何かを始めるには絶好のタイミングだった。

■香川と高知を往復の日々
12040136542s.jpg 思い立ったが吉日。早速高知中のペットショップに片っ端から電話をし、トリミングを教えてくれる所を探すものの、その返事は「難しい」の一点張り。諦めかけたその時、新聞で香川にある専門学校「サンシャイングルーミングスクール」の広告を発見し、すぐさま問い合わせた。そして2ヶ月後から、高知と香川を往復する日々が始まる。「子供も抱えていたので失業保険と退職金だけでは生活が成り立っていかない。だから週4日は8時30分~19時30分まで高知で事務のバイトに明け暮れ、残りの3日を香川のスクールで過ごしました。香川へは汽車で通っていたんですが、高知に戻ってくるのは19時~20時頃。ある時なんか、家に帰ったら子供がいない!ビックリして探し回ったら高知駅で私を待ってたりとか。私が香川で2泊してる間の子供の世話は主人がやってくれてるとはいえ、本当に子供が可哀相でした」。入学時もご主人とは散々話し合い、姑さんからも「もう少し子供が大きくなってから通えばいいじゃないの」と猛反対に合った。しかし金銭的にも退職金で余裕のある今を逃すことは、チャンスを手放すも同然。デスクワークで10年間生活してきた岩城さんにとって、トリマーという仕事は180度正反対の外の世界と触れる新しい世界であり、こんなに強烈に何かに憧れることも初めてだった。「今しかない。思いたった時しかないんだ」、その信念が岩城さんを新しい道へと突き動かしていた。

■ライセンス取得、そして開店
 香川のスクールでは、犬の洗い方、はさみの使い方、切り方を勉強。岩城さんと一部の生徒を除いて、生徒は全員10代だった。「若い子は授業が終わったら、すぐ帰りたいという感じですよね。でも私は子供を振り切ってまで行ったくらいでしたから、貪欲に覚えました。泊まりだから高知に帰るわけにもいかず、最後まで残って先生の手本を見ていました」。そして33歳の時、念願のC級ライセンスを取得。壮絶な戦いの日々にやっとピリオドが打たれ... るワケはなく、ドッグショー用に犬をカットできる、さらに上のB級ライセンス取得に向け、新たなチャレンジの日々が幕を開けるのである。
 しかし家族との最初の話し合いで、通学は1年間という約束。でも、どうしても、もう1年スクールに通って技術を身に付けたい。「それなら、せめて高知で自分の店を開いてお客さんの犬を1日に1匹でも触らしてもらいながら、店の定休日に通学したら? ということになったんです。そこで三園町の実家の1階車庫に窓とドアを取り付けただけのトリミング専門店『プリティ ドッグ ハウス』をオープンしました。当時はまだトリミング店が少なく、高級住宅の多い三園町という立地がら犬を飼っている人も多かったので、なんとかお客さんは確保できましたね」。1990年、祖父に借りた100万円を元にし、ここに夢への活動拠点地が完成する。
 それからは週1回、自分の店の定休日に再び通学の毎日。B級クラス授業には、もちろん卒業のための規定日数があり、通常は週4日の授業が開かれている。しかし岩城さんの熱意にスクールの先生は根負け。授業料は他の生徒と同じことを条件に、週1日しか授業に通えなくてもB級クラスに上がることを許された。「自分がトリマーの道を目指したのは、ドッグショーで犬をカットしたかったから。つまりB級ライセンスじゃないと意味がなかったんです。他の生徒より1時間早い9時には教室に入って、犬をカットしました。この時は日帰りだったから、どうしても18時までに1匹仕上げて帰りたい。そんな私に先生も『そうじゃない!』と、貪欲に教えてくれましたね」。高知の自分の店でのカット、香川のスクールでの授業、まさにカット尽くしの1年間が終了し、91年、遂にスクールを卒業、念願のB級ライセンスを取得! 岩城さん34歳のことだった。

■チャンピオンを目指して
12040136543s.jpg B級ライセンスを取ってからは、毎週ドッグショーに走る日々。スクールの先生に「マックは元々の体格がショー向きじゃない。この犬で挑戦する限り、ショーでは勝ち上がれないよ」とのアドバイスを受け、ショー用の新しいプードル「キャロル」を新しく購入した。それからは大阪や京都、九州など、数々のショーにチャレンジし、そして99年、ついに観音寺で開かれたショーでチャンピオンを獲得するのだった。この頃になると、岩城さんが必死に働く姿を見た人がまた人を呼び、商売としても売り上げは会社勤め時代の倍額に到達した。「会社で働いていた頃はバブル全盛期で、服は全部ブランド品。でもトリマーの世界に入ってからはGパン1本で済むんで、生活も質素になりましたね。だから稼いだお金は全部犬に使う、いい犬を買うことしか頭になかったです」。プロのA級ライセンスを40歳で取得する頃には、「自分が掛け合わせて産ませた犬をチャンピオンに仕上げ、外国のショーに出したい」という新たな夢が生まれていた。

■2号店の誕生
 それからはショー用の犬を繁殖させるため、同業者の仲間とアメリカやイギリスの犬舎を訪ね歩いた。そして得た知識で交配させるうちに、岩城さん達の生活スペースにまで犬が溢れるようになり、店だけでは事が足りないほど犬が増えていった。しかし研究の甲斐あって、プードルなら骨格の美しい仔犬を繁殖させることができるようになる。そして「自分達が産ませたプードルを引き取ってくれて、その仔犬と一緒にドッグショーに行ってくれるお客さんを探したい。それに自分達が住むスペースも犬のおかげでなくなったから(笑)」という理由で、ここに今年10月、待望の2号店「プードルファンク」が誕生するのであった。1号店はスクールに通うために立ち上げた店、しかしこの2号店こそが岩城さんの願いを具現化した夢の城なのだ。
 「犬を散歩させた後に洗いやすいようにカットして!」など、機能美を追求するお客さんと自分のカットのイメージが一致せず、クレームを受けてショックを受けることもよくあった。「皆本当は嫌われたくないから、そこまで言ってくれる人は一握り。同業者の友人とも、犬の繁殖や店の経営について熱く語りすぎて、何度もケンカになったり。でも、いいことはいい、いかんことはいかんって言ってくれる。幸せなことに私の周りにはそんな仲間や先輩がいて、一生懸命さを見てくれているんです」。取材時も休憩一つ挟まず、ぶっ通しでパワフルに3時間語ってくれる岩城さんの姿が、その一生懸命さを物語っている。犬の出産には2日間寝ずにつき合い、お客さんから預かった犬は怪我をさせないように、カットを気に入って貰えるように返す。自分が大切に育てた犬を、「可愛がってくれる」お客さんに渡せるときは、涙が出るくらい嬉しい。そんな岩城さんの人柄と確かな技術を慕って、毛むくじゃらの「家族」を抱えたお客さんが今日も訪れるのだ。

 

「PRETTY DOG HOUSE(プリティ ドッグ ハウス)」プードルファンク
高知市城山町106
TEL/088‐834‐3335
営/10時~18時 
休/月・第3日曜