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懐かしの誌面

「トロピカルワールド」 中澤英樹さん

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1997年7月20日オープン

■動物と暮らす生活
12040112972s.jpg 動物がいるだけで人と人とのあいだに和やかな雰囲気が生まれたり、生活の中に潤いや心の安らぎをもたらしてくれるということがよくある。最近、このような動物は、人が一方的に可愛がるだけのペットから、ともに暮らす仲間としてコンパニオンアニマルと呼ばれはじめている。動物たちの果たす役割が社会的に注目されている証拠だろう。
 今回は、そんな動物たちと人を結ぶ最も身近な場所、ペットショップが主役。なんの経験もなかった1人の男性が、ペットショップを立ち上げるまでにはどんな秘話があるのだろうか?

■店内はまるで小さな動物園!
12040112973s.jpg 高知市から東へ車で約40分、野市町の国道55号線沿いにある大きな看板が目印。平成8年にオープンした「トロピカルワールド」は、熱帯魚だけで400種類以上、そのほか小動物、昆虫類、鳥類、は虫類、両生類など多岐にわたる動物を取り扱う、高知でも大きな総合ペットショップだ。店内へ一歩足を踏み入れると、そこはまるで小さな動物園。入り口付近にはリアルに人間の言葉を真似る九官鳥や世界のクワガタ、個性的なイグアナの姿が。右手にはズラリ並んだ水槽の中を優雅に泳ぐ魚たち。左手には犬、猫、ハムスターなどの小動物が愛らしいコミカルな動きでお客さんを魅了している。「これでも一時より少なくなったんですよ。以前はピラニア全種類、アライグマ、ヤギ、アルマジロがいたこともあったなぁ」と、この店のオーナー・中澤英樹さんは笑う。

■オートバイ事故で生活が一変
 動物を相手にする仕事人の多くが、幼い頃から大の動物好きであったり、動物に慣れ親しむ環境で育ったりするものだが、中澤さんの場合は少し異なる。10代の頃の興味は、専ら車を触ることと乗ること。高校を卒業して、自動車整備士になるための専門学校に進み、20歳で「高知スズキ」に就職。2級整備士の資格を取得し、車の修理や安全点検を行う仕事に携わっていた。
 しかし、あることを境に中澤さんをとりまく環境がガラリと変わってしまう。仕事帰りの途中にオートバイ事故に遭い、脊髄を損傷。命の危険はなかったものの車いすの生活になった。26歳のときのことだった。
 「もう俺の人生終わった。車いすにのっては恥ずかしくて外出もしたくない」。1年半に及ぶ入院中、世の中が嫌になり、何事もやる気がしなかったという。そんな中澤さんを少しずつ変えていったのが、車いすバスケットボールチーム「高知クラブ」の存在だった。「メンバーが病院を訪れて勧誘してくれたときは、自分がまだ障害者であるということが受け入れられなくて、仲間に入りたくなかった。でも退院後、実際に練習を見たら単なるレクリエーションではなく、勝負に勝つための激しいスポーツであることに驚きました。うちは中・四国のなかでは結構強いチームなんですよ」と、入部12年目を迎える今では誇らしげに語る。現在でも、忙しい仕事の合間を縫って練習に出かけている。中澤さんにとって、車いすバスケはもはや趣味を越えた生きがいだ。
 このバスケ部に入ることによって、固く閉ざしていた中澤さんの心が次第に外の世界に向いていくきっかけになった。いろんな仲間と出会い、外出する機会も多くなった。そして28歳のとき、中澤さんはたまたま行った床屋でもう一つの生きがいに出会う。それは、店内の水槽の中で泳ぐキレイな熱帯魚だった。そのときふと「魚でも飼ってみようかな」と思ったのが始まりだった。

■熱帯魚の魅力
 早速、近くの熱帯魚屋へ行き、お店の人に勧められるままに熱帯魚セットを購入。初めて飼ったのは、飼育しやすいネオンテトラや骨が透けてみえるトランスルーセント・グラスキャットなど4種類。飼いはじめた頃は殺しやしないだろうかと心配で、毎朝起きては水槽を覗いて生きていることを確認した。そのうち、もっと飼育が難しい魚や珍しい魚も飼ってみたいと思うようになっていった。「熱帯魚には、いろんな魚を集めるコレクション性、小さい魚を大きくなるまで育てる楽しみ、繁殖させて増やす楽しみがあるんですよ。手をかければかけるだけ、魚も水草もキレイに育つ。手を抜けば死んでしまったりシビアに反応もするんですが、こちらがしたことに対して相手が応えてくれるのが嬉しかったですね」。それからというもの、県内外各地の熱帯魚屋めぐりをしたり、本や雑誌で情報収集したり、中澤さんはさらに熱帯魚の奥深い魅力にはまっていった。

■第二の人生をはじめたい
 熱帯魚を飼い始めて5年、気付けば部屋中が水槽だらけ。約30種類もの魚たちにエサをあげたり、水替えをしたり、世話をするのが日課になっていた。時期を同じくして、仕事復帰について真剣に考えるようになっていた中澤さんは、この趣味を仕事につなげられないかと思うようになっていく。「事故に遭った当初はやる気も起きなかったけど、次第に自分でも何かをやりたい、仕事をしてそれを周りの人にも認めてもらいたいという思いが強くなっていったんです。そしてやるなら自分の好きな熱帯魚の店をしたい」。
 あるとき、友達と飲んでいる場でその思いを打ち明けた。「やるやったら、手伝おうちゃるぞ」。そう言ってくれたのが、小学校時代からの親友・池内卓也さんだった。頼れる友の後押しを得て、これまで夢にすぎなかった中澤さんの思いが一気に盛り上がった。第二の人生に向けて動き出した瞬間だった。

■二人三脚でゼロからのスタート
12040112974s.jpg まず、2人が最初に行ったのは場所探し。目立つ国道沿いにあり、車で来られるような条件で探したところ、ちょうど空き地になっていた今の場所を見つけた。調べてみると、そこはたまたま友達の実家が所有している土地であることが判明。事業計画書を立てて、直接交渉し借りられることが決まった。店舗となる建物や内装工事関係は鉄鋼所に務めていた池内さんが担当した。
 難関はこの後、これまで全くのお客さんでしかなかった中澤さんには、肝心の商品の仕入れ先がわからなかったのだ。しかし、土地も借りてすでに工事も進んでいる。もう後には退けなかった。「よく他店を覗きに行きました。張りこみじゃないけど、出入りする配達車に書かれた電話番号を控えたり、電話帳や熱帯魚関連の雑誌に載っている番号に片っぱしから電話をしたり、手紙を書いたり」。しかし、時代は不景気。熱帯魚ブームが下火になってきていることもあって、これから商売を始めようという素人に、最初からいい返事をしてくれる問屋はそうなかった。中澤さんは実際に問屋を訪れたり、図面や工事中の場所を見せて説明をしながら熱意を伝えた。そしてなんとか飼育関連器具と生き物を扱う問屋をそれぞれ確保することができた。
 しかし、店を立ち上げるのは2人にとって初めての経験。物件を探しはじめてからオープンまで、約9ヶ月間の準備期間をとっていたが、予定していた作業はどんどん遅れていた。池内さんは、作りかけの店内でダンボールを敷いて寝泊りしながら作業を続けた。
 一方、中澤さんは商品となる生き物の環境づくりに追われていた。相手は生き物なので、仕入れてすぐ店頭で販売するわけにはいかない。店舗の完成はオープンギリギリだったので、中澤さんは自宅の車庫をつぶして、開店日の約1ヶ月前から水槽を並べ、魚や水草の調子を整えることに務めた。「今思えば、1週間前でも間に合うんだけど、そのときは素人の考えることだったからね」と、当時の悪戦苦闘ぶりを振り返る。

■忘れられないオープンの日
 そしていよいよ開店当日、平成8年7月20日の朝を迎えた。大々的に新聞広告を打ち、事前のPRは万全。だが、開店時刻になっても準備は終わっていなかった。商品の棚入れなどをしている途中にもかかわらず、新しいお店に興味津々のお客さんが次から次へと来店してきた。池内さんをはじめ、池内さんの奥さん、友達に手伝ってもらったものの、専門的な知識があるのは中澤さんだけなので、一日中店内のあちこちで呼ばれ、まさに猫の手も借りたい忙しさだった。
 ようやくその日の営業が終了し、初日の売上げは約150万円。予想を上回る客足に、うれしい悲鳴をあげる余力さえ残っていなかったという。「当たって砕けろと思って始めたものの、だんだん不安が大きくなってきて...。全くの素人が膨大なお金をつぎ込んでしまって、これがダメだったらこれからどうしよう。悪い方へしか考えが及ばなくなってきていたので、なんとかオープンまでこぎつけたときは『あー、できた』と...。そのときは疲れきっていて言葉もでなかったですけど」。中澤さんにとって、忘れることのできない思い出深い一日だ。

■商品とはいえ命あるもの
 熱帯魚専門店としてスタートしたその2年後、魚だけでやっていくことが難しくなり、試みとしてハムスターを入荷してみた。これが子供たちを中心に大人気。続いてウサギ、リスなどの小動物にはじまり、さらには好奇心も手伝って、猿やスカンクなど珍しい動物も扱いはじめる。新しい動物が増えるたびに、中澤さんは本やインターネットで知識を身につけ、実際の飼育体験を通して、一つ一つ勉強していったという。「商品とはいえ命ある生き物なので、動物の体調には特に気を配っています。お客さんにも元気な姿を見てもらいたいし、病気になったら動物も可愛そうですしね。売れるまでは毎日店で世話をするので、エサ代や飼育するスタッフの人件費などがどうしても必要になる仕事です。でも、売れると良かったと思う反面、これまで育ててきたから寂しくもある。複雑な心理が働く、特殊な商売ですよ」。

■面白くて役に立つ店づくり
12040112971s.jpg この7月でオープンから丸6年。今ではさまざまな動物が集まる総合ペットショップへと成長し、昔からの熱帯魚ファンに加えて、子供や家族連れも多く訪れるようになった。「お客さんからペットの相談を受けてアドバイスをした結果、勧めた商品を買ってくれた上に『いろいろ教えてくれてありがとう』と感謝されるときは、『やったー!』と思いますね。お金を貰った上に感謝もされる仕事って、先生と呼ばれる職業ぐらいでしょ。また、子犬を買っていってくれた人が、大きくなった姿を見せにきてくれて犬が家族の一員として大切にされているのを感じる瞬間なんかは嬉しいですね」。
 中澤さんの目標は、「変わった動物もいる面白い店、お客さんの役に立つ店」づくりだ。そんな中澤さんの目標を支えているのが、動物好きで働き者のスタッフたち。この職場に、動物たちは何かしらのエネルギー与えているのだろうか。人と人、人と動物の良い関係が、働くスタッフや中澤さんの笑顔からも感じることができる、「トロピカルワールド」はそんなお店なのだ。

 

「トロピカルワールド」
香美郡野市町西野1875-1
■TEL/0887-56-1815
■営/11:00~19:00
■休/木曜日