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懐かしの誌面

第8回 泣き虫ビッチさんの恋愛

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2つの宝物

誰にも負けたくない。
カッコイイ生き方をしてあたしは1番になりたい。
もう後ろは振り返らないって決めたんだ。

 

12040984811s.jpg■今月の主役
泣き虫ビッチさん(仮名・23才)
トレードマークは長い長い(つけ)まつ毛と、左腕に彫り込まれた入れ墨。昼間は入れ墨屋、そして夜はパンク&ロカビリーの聖地と言われる高知市内のBARで働く。見た目とは裏腹に(?)案外デリケートな心を持つ...

■登場人物紹介
○ビッチ...この物語の主人公。仲間を思いやる気持ちは人一倍。少々気性が荒い一面も。 
○ユウジ...天性の愛されキャラの持ち主。意外とモテる。 
○マイ...ビッチの中学からの親友。気は優しく、美人。 
○コウタ...ユウジの幼なじみ。3人よりは一つ年上。


 今、あたしは胸を張って幸せだと言える。それはもちろん、好きな仕事をして充実した毎日を送っているからというのもあるけれど、何より大好きな人たちがいつも周りにいてくれるから。彼らの存在なくして今のあたしは存在しない。事実、あたしはとっても弱虫で泣き虫だから。

 あたしは今から3年前、2つの大切な宝物を失った。お金では買えない、とってもとっても大事なもの... 1つ目は、高校から3年半付き合った、ユウジだ。

 高知に生まれ、高知ですくすく育ったあたしには、幼なじみが結構いる。その中の一人、小さな頃からケンカばかりしていた近所の男の子、マサシからある日突然連絡がきた。
「おい、俺今街におるがやけどカラオケでも行かんかえ? こっち男二人やき、お前あと一人女の子連れて来てや」
 寒い日だった。マサシに会うのは久し振りだし、ちょうど暇してたとこだし、たまにはワイワイ騒ごうかな。あたしはいつに無くノリ気で女友達を誘った。でも、その子はドタキャンしてしまい、結局3人で遊ぶ事になった。マサシと一緒にいた男の子、それがユウジだった。ユウジの第一印象は「変なヤツ」。ヒョロッと背が高くて、お世辞にも男らしいとは言えないような... でも、ああいう人を本当の天然っていうんだろうな。どっか抜けてるというか、おかしいというか、とにかく変なヤツだったけど、ユウジの周りにはいつも誰かがいて、笑ってた。天性の愛されキャラってやつだね、きっと。元々その場に出会いなんてこれっぽっちも求めていなかったあたしは、自分が女であるという事も特に意識せず、その日はとことん騒いだ。だから、それから3日後にユウジから突然メールが入ってきた時は、結構驚いたんだよね。で、無意識のうちにユウジに惹かれてた自分に初めて気付いたんだ。

 メールを始めて2ヶ月後に付き合い始めた。でも、それはもうあたしにとっては遅過ぎるスタート。だって、あたしはユウジが大好きだったから。ユウジを手に入れたくてたまらなかったから。
「...俺と付き合ってくれん?」
 夜中に呼び出され、他愛ない会話が途切れた時、ユウジがポツリと言った。死ぬ程嬉しかった。まさに天にも昇るって感じ。でもあたしは
「あーー、いいで。」
 と、ぶっきらぼうに答えるのが精一杯だった。本当は今すぐユウジに抱きつきたかった。嬉しくて嬉しくて涙が出そうだった。でも、普段からユウジに対しては結構キツイ態度をとってたから、今さら女らしくするのなんて恥ずかしかった。だからそんな風にしか答えられなかったんだ。あたしがもう少し可愛げのある女の子だったら、何か変わっていたのだろうか... 今更そんな事言ってもしょうがないけど。

 来る日も来る日も、あたしはユウジと一緒にいた。
 高校はお互い別々の学校に通っていたけど、それでも学校が終わってから毎日会ってた。何だろう。全然飽きないんだ、ユウジとずっと一緒にいても。
「あたし達は出会う運命だったんだね。」
そんなロマンチックなセリフ、死んでも口には出せなかったけど、あたしは本当にそう信じてた。高校を卒業したら県外に行くって決めてたけど、ユウジが反対したからやめた。生まれ育った高知で、ユウジがいるこの街で、ゆくゆくは結婚をして家庭をもって... あたしもやっぱり普通の女の子だ。好きな人のお嫁さんになりたかった。

 あたし達は高校を卒業して一緒に暮らし始めた。たまたまうちのおばあちゃんが持ってたアパートの部屋が空いてたから、あたしはそこに住み始めたんだけど、毎日やって来るユウジも自然と一緒に暮らすようになった。あたしの家族は全員ユウジの事を知ってたし、特にお父さんはユウジを凄く気に入ってたから、同棲する事に反対はされなかった。
 あたし達は羨まれる程ではないけれど、周りの誰もが知ってる公認のカップル。どこに行くにも、何をするのも2人一緒で、共通の友達は増える一方。あたしは元々2人でラブラブってのより、皆でワイワイやる方が好きだから、それも楽しかった。中でもあたしの中学からの大親友・マイとはよく一緒に遊んだ。デザイン事務所で働くマイは、しっかり者で気が利くカワイイ奴。昔から何でも話せる仲だった。もちろん、ユウジの事も何でも話したし、相談も山程した。あたしがユウジとケンカをした時も、マイは一晩中あたしの愚痴に付き合ってくれてた。嫌な顔一つせず、いつでも真剣に聞いてくれた。そして決まってこう言うんだ。
「あんたら2人は大丈夫」って...
 当時彼氏がいなかったマイは、ユウジの幼なじみ・コウタの事を気に入ってた。あたしはそれが嬉しくて、何とか2人をくっつけようと頑張った。ユウジ、コウタ、マイ、あたしの4人で遊ぶ事が多くなり、その回数が増えるうち、自然とコウタとマイは付き合い始めた。
 楽しかった。
 特に何をするわけでも無く、普通に集まったり、4人であたしんちに泊ったり、どこにでもあるような日常が楽しくてしょうがなかった。
 でも、市内の専門学校に通うあたしとユウジや、比較的時間に融通の利く仕事をしてるマイに比べて、市外の学校に通うコウタだけはなかなか集まれない事が多かった。あたしもバイトで遅くなる事が多くって、あたしの部屋でマイが晩ご飯を作り、マイとユウジの2人であたしの帰りを待ってるなんて事は日常茶飯事だった。
 そう、そんな事はマイがコウタと付き合う前から当たり前の事。
 それが当たり前過ぎたのか、付き合い始めて丸3年という長い月日が安心させていたのか、もしくは心から信頼しきっている親友だったからか... あたしはその日まで、そんな事を想像した事も無かった。だって、ユウジはあたしの彼氏だったから。マイはあたしの親友だったから。

 その日は日曜日だった。
 朝からバイトがあったあたしは、珍しく早起きして家を出る準備を始める。あたしの横にはユウジ、そして隣の部屋ではマイが寝てる。昨日、いつものごとく3人で遊び、そのままマイが泊まったんだ。ユウジを起こさない様に起き上がろうとした瞬間、お腹の辺りを蹴ってしまった。ヤバイ。起きちゃうかな。
「......おはよう」
「ごめーん。起こしてしもうたね。すまんすまん」
「お前今日何時に終わるが? バイト」
「遅いと思うき、また終わったら迎えに来てや。連絡する」
「うーーん。分かった... てか俺今日何しよ... バイト夜からやし...」
「あ、マイも今日仕事休みながやない? 昼間2人で遊んだら?」
「...うーーん。そうしようかなぁ。...とりあえずもうちょい寝るわ。行ってらっしゃい」
 そう言ってユウジはまた布団に頭を潜らせた。今度は蹴らないように慎重に、ソッとベッドを抜け出した。
 その日、休日という事もあってか店は大忙し。専門学校を卒業したらこの店にそのまま就職する事が決まってた。大型ショッピングセンターの中に入っている服屋さんだ。接客も好きだし、スタッフは皆いい人で仲良し、何より大好きな洋服に囲まれて働くのが楽しかった。
 やっと仕事が終わって時計の針は午後11時を回ってた。約束通りユウジに電話する。そしてその20分後にユウジが車で迎えに来た。
「今日も疲れたわぁ...」
 そう言って車に乗ろうとした瞬間、ギョッとした。
 いつもあたしが座ってる助手席に、マイが座ってた。頭にハテナを浮かべつつ、車に乗り込む。
「ユウジ、あんた今日の夜バイトやなかったが? なんでマイも一緒におるが?」
「あーー... バイト休んだ」
「はぁ? なんで? マイとずっと遊びよったが?」
「うーーん...」
 何コイツ。ハッキリ返事もしないし、バイトを休んでるって事に腹が立った。あたしは1日中働いてたのに... 何となく沈黙が続いた。ユウジはもちろん、いつも明るいマイが一言も喋ろうとしない。何かおかしい...
 マイを家まで送り、部屋に帰って来てから、ようやくユウジが口を開いた。
「お前に話しがある」
「...何?」
「..........................................」
「何って聞きゆやん。ナニ?」
「...好きな人ができた」
「はい? あんた何言ゆが?」
「..........................................」
「ねぇ、それってもしかして...... マイやないでね?」
 ユウジは下を向いたまま黙って頷いた。
「あんた何言ゆが? マイはコウタと付き合いゆうやん」
「...今日、お昼ご飯一緒に食べゆう時にマイから告白された... ずっとユウジが好きやった、って。で、俺も好きって言った」
「あんたバカじゃない? 意味分からんがやけど」
「意味分からんのはお前ながやけど。お前よー、なんで俺が嫌がるの分かっちょって男と飲みに行ったりするが? しかも飲みに行くだけならまだしも...」
 ユウジは言葉をつまらせてまた下を向いてしまった。「まだしも...」その後に続く言葉があたしには分かる。でも、その事をユウジは知らないはずだ。そう、知っているのはただ一人。マイだ。
 あたしは「男友達」と飲みに行くしエッチもする。でも、あたしが好きなのはユウジだけ。だからそれはあたしの中では「浮気」では無かった。だって、浮気は気持ちが動いちゃう事でしょ? あたしは浮気なんかしていない。だからマイにも話したし。でもやっぱ、彼氏に「他の男とエッチした」なんて言えないじゃん。たとえ気持ちが入ってなくても... だから黙ってたのに...
「......じゃぁあんたはどうしたいわけ?」
 苛立つ気持ちを抑えてユウジに問う。
「お前の事は凄く大事に思っちゅうで。でも、やっぱり不満はいっぱいある。そんな時にマイにあんな事を言われて、正直今はマイの事が気になる。こんな気持ちのままここで暮らすのは失礼やき、出て行くわ」
 思わず手元にあったクッションを投げつけた。一緒に暮らし始めた時、2人で買いに行ったクッションを。
「じゃぁ、これも、それも、あれも、あんたが持って来たもん今日中に全部持って行って!」
 ユウジは黙ったままだった。黙ったまま、荷物をまとめ、そして出て行った。3年半付き合って、こんな終わり方、あり? 広い部屋に一人ポツンと取り残され、広いベッドに入った瞬間、涙が溢れてきた。いつも見てた、あの広い背中はもう無いんだ... 確かにあたし達2人のこの問題では完璧にあたしが悪い。でも、どうしてマイなの。どうしてよりにもよってあたしの親友なの...
 泣いた。文字通り、涙が涸れるまで泣いた。

 次の日、ユウジとマイが謝りに来た。泣き腫らした顔を見せるのは嫌だったけど、マイの顔を見るのがもっと嫌だった。
「ねぇ、あんたら一体何なが?」
 下を向いて黙りこくっている2人。イライラしてたまらない。何か言えよ。
「......ごめん」
 ユウジがそう言ったとき、あたしの中で何かが切れた。
「あんたねぇ、ごめんですむ問題なが?! 大体コウタはどうなるわけ? あんたら幼なじみやないがかえ!」
 そう言ってあたしはユウジを殴った。あたしの方が悪いはずなのに、ユウジに手を挙げ続けた。
「もうやめて!」
 マイが止めに入る。あたしの苛立ちはピークに達していた。
「あんたも何様なが? あたしとユウジの問題はあたしが悪いと思っちゅう。でもよ、あたしとあんたの問題は完璧あんたが悪いで。あたしの一番大切なものが何か、あんたが一番分かっちょったはずやろう? 人の一番大事なもんとっちょって、やめてじゃないろう?!」
「ごめんなさい...」
 そう言ってマイはその場に泣き崩れた。一発殴ってやろうと思ったけど、女に手を挙げてしまったら負けのような気がして、我慢した。ユウジがマイを心配そうに見てる。3年半あたしだけを見てきた彼の目は、もうあたしには向いていない。
「もう帰って。二度と顔見たくない。二度とあたしの前に現れんとって!」
 立って歩く事さえままならないマイをユウジが抱きかかえるようにして2人は出て行った。
 愛する人とかけがえのない親友。あたしは2つの大切なものを同時に失ってしまった。

12040984812s.jpg あの悪夢の様な日からもう2年経つ。別れたばかりの頃は痩せ細り、異常なくらい男と遊んだ。ユウジを見返すってわけではないけれど、ユウジが羨むくらいカッコイイ生き方をしてやろうと、思うがままにとことん好きな事をしまくった。仕事も辞めて、左腕には入れ墨を入れた。心から信頼できる仲間を見つけ、彼らに助けられ、彼らのおかげで自分の新たな才能も発見した。ユウジと付き合ってた頃に比べて、世界がどんどん広がっていく。毎日が楽しくてたまらない。
 でも、たまに思うんだ。
 あのまま平穏無事にユウジと結婚をして、家庭を持っていたなら、あたしは今どんな人生を歩んでいたんだろうって。
 そういえばつい先日誰かに聞いたっけ。ユウジとマイがもうすぐ結婚するって。
 でも、それでいいんだ。マイは一生ユウジといなくちゃいけない。それがケジメってやつでしょう。だって、ユウジはあたしの一番大切なものだったんだから。あたしっていう親友を裏切ってまで奪った男なんだから。
 あたしはあたしで、もう過去なんて振り返らず、前だけを見て生きていく。誰もが羨むように、強く、かっこ良く、生きていく。

(2005年11月号掲載)