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懐かしの誌面

第6回 山本サオリさん(仮名)の恋愛

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あんなに優しかったのに、何故?

とにかく彼と別れたかった。
とにかく彼から離れたかった。逃げ出したかった。
出会った頃はあんなに好きだったのにね...


12040992431s.jpg■今月の主役
山本サオリさん(仮名・24才)
見た目とは裏腹に、喋るとちょっと天然で... かと思いきや実はとっても賢くて頭も切れる!...と、典型的(?)なAB型。昔からかなりの恋愛体質で、恋した数は数えきれず... 恋多き乙女デス。

■登場人物紹介
○サオリ...当時21歳。恋は多くもなかなか男運が無い、この物語の主人公。 
○タツヤ...アミの彼氏であり、サオリの彼氏でもあるクセモノ。独占欲が強く、プライドが高い。 
○アミ...サオリの中学時代からの友人。怒らせると恐い。見た目はギャル風。


 あたし達は出会いからして普通じゃなかった。彼・たっちゃんはもともと中学時代からの友人・アミちゃんの彼氏。あたしが大好きだった人に突然フラレて、どん底まで落ちてた時、たっちゃんに嫌気がさしてたアミちゃんに「好きな人できたから、あたしの代わりに彼氏と遊んであげて」って言われたのがキッカケで、たっちゃんに出逢った。第一印象は良かった。ジャニーズ系のたっちゃんは、ハッキリ言ってアミちゃんにはもったいないくらいの男前。出身は静岡で、大学でこっちに来た人。人見知りも無くて、初めて会ったけど普通にたくさん話せた。その日は海にドライブに行って、その帰り際にイキナリ告白された。会ってからまだ6時間くらいしか経ってなかったし、友達の彼氏だし、ありえないって思ったけど、あたしはOKを出した。どういうわけか、その時は「浮気相手でもいいや」って思ったの。多分、付き合ってた彼氏にフラれたばかりで寂しかったんだね。

 次の日から、ひっきりなしにたっちゃんから電話が鳴るようになった。たっちゃんは凄い心配性で、優しい人。「電車一人で乗れる?」とか「バイト終わってから一人で帰れる? 迎え行こうか?」とか、普通では心配しないような、細かい事まで気にする人だった。でも、そんなたっちゃんが大好きだった。運命って本当にあるんだなぁって実感したくらい、あたし達は相性が良かったと思う。ほぼ毎日会ってたし、会えない日は1日に5回くらい電話をしてた。メールの交換もいっぱいしてた。出逢ってすぐ付き合い始めたけど、もう何年も付き合ってるカップルみたいにあたし達はお互いの事は何でも話し合えた。でも、なんとなく、アミちゃんの話題だけはお互い口にしなかったんだよね。あれ以来、アミちゃんから一切連絡は無かったし、たっちゃんも彼女の話しはしない。多分2人はもう終わってるんだって決めつけて、気にしない様にしてた。そんなある日、バイトの帰りに友達と飲みに行ってたら、案の定たっちゃんから電話が鳴った。すでにビールをジョッキで2杯飲んでたあたしは、ほろ酔い気分で電話に出た。
「もしもーし」
「サオリ? 今何してんの? てか、後ろウルサイよ。飲んでんの?」
「バイトの子らぁと飲みゆうでー。言ってなかったっけ?」
「...聞いてない。男もいんの?」
「...おるよ。バイトの友達。」
「は? 俺、前に男がいる飲み会には行くなって言ったよね?」
「でもバイト先の子ばっかやもん。たっちゃんが心配するような事無いって。」
「じゃぁ替われよそいつに。」
「なんで? バイトの子って言ゆやん。」
「あっそう。じゃぁいいよ。俺もう寝るから。せいぜい楽しんで。オヤスミ」
 そう言って電話は切られた。確か前にもこういう事あったっけ。久し振りに同級生と会って飲んでた時、たっちゃんから電話がかかってきて一方的に切られたの。たっちゃんは優しい反面、すごくヤキモチやき。例え女だけの飲み会でも、機嫌を悪くして電話を切られるなんて事は多々あった。
「また怒らしてしもうた...」
 そう思うと気分が一気に盛り下がって、あたしは一足先に帰る事にした。帰り道、何度もたっちゃんにメールを送ったけど、いっこうに返事は無かった。家に着いたのは時計の針が深夜1時を回った頃。ヨタヨタと階段を上がり、顔を上げた瞬間ギョッとした。部屋の前に誰か座り込んでる。膝をかかえ込むようにして、確かにあたしの部屋の前に誰か座ってる... 顔はよく見えないけど、男だ。怖くなったあたしは後ずさりして階段を降りようとした。その時、カツンというあたしのヒールの音にその男がサッと顔を上げた。
「ヤバイ」
 そう思って走り出そうとした時だった。
「サオリ?」
 聞き覚えある声。振り返るとたっちゃんがそこに立ってた。
「たっちゃん?! どうしたが?!」
「...いや、なんか。急に会いたくなって... さっき突然電話切っちゃったし...」
「あたし何回もメール送ったで! 届かんかった?」
「届いたよ。でも直接会った方がいいと思って... ごめんね。いっつも怒って...」
「そんな... あたしの方こそごめん。でも今日の飲み会はほんと、バイトの子ばっかりやったがで。たっちゃんが心配するような事はほんと、あたし何にもしてないきね。」
「分かってるよ。でも俺さー、ほんと心配なんだよ。サオリが他の男に取られちゃったらどうしようって...」
 そう言ってたっちゃんはギュッとあたしの事を抱きしめた。あぁ、あたしは幸せ者だな... その時は本当にそう思った。その日以来、あたし達は更に仲良くなった。学校にいる時とバイト以外はほぼ一緒にいた。本当に本当にたっちゃんの事が好きだったし、彼もあたしの事を大切にしてくれた。
 でも、たっちゃんと出逢って2ヶ月が過ぎた6月のある日。それは突然... 本当に突然起こったの。
パチーーン!
手に持ってた箸がコロコロッと転がってテーブルから落ちた。
 エ? あたし、殴られた...?
 殴られた右頬を抑えて彼の方を見たら、今まで見た事が無いような冷たい目をしてたっちゃんはこう言った。
「マズイって」
 ほぼ毎日のように家に遊びに来てた彼のために初めて作った晩ご飯。確かに料理は得意な方ではない。でも、不器用なりに頑張ったつもり。なのに、そんなにマズかった? あんなに優しかったのに、いつも「大好きだよ」って抱きしめてくれたのに、その時のたっちゃんはあたしの知らない顔をしてた。あまりに突然起こった信じがたい出来事に、あたしは「ごめんなさい...」としか言う事ができなかった。

12040992432s.jpg それからだ。たっちゃんは事あるごとにあたしに暴力を振るうようになった。顔を殴るのは当たり前、ヒドイ時は満員電車から引きずりおろされて、人がたくさんいるホームでボコボコに蹴られた事もある。どうして暴力を振るうのか。それはほんとささいな事。たっちゃんの気に少しでも障るような事があれば、場所がどこだろうが、人が見ていようが、おかまいなしにあたしは殴られ、蹴られた。あぁ、こんな事もあったっけ。2人で人気のお寿司屋さんに食べに行った時、2人共お腹ペコペコだったにもかかわらず、店には行列ができてた。待つ事が苦手なたっちゃんは、すぐにイライラし始めて、爪を噛み出した。サインだ。たっちゃんがキレる前、必ずこうやって爪を噛むクセがある。「絶対殴られる」そう思ったあたしはすぐに別の店に食べに行こうと提案した。でも、かえってそれが引き金になったみたいで、たっちゃんは手に持ってた傘の柄であたしを殴ってきた。もちろん、店の前に並んでる人も、店の中にいた人も、店員も、みんなあたし達を見てた。でも、そんなの彼にとっては関係無い。殴られる事に慣れてたあたしはとにかく耐えた。抵抗すればもっとやられると思って我慢した。暴力を振るう時のたっちゃんは本当に別人。分かりやすく言うとすれば、目がイッてる。その証拠に、彼はあたしに暴力を振るった事を覚えてないって言うの。夜、寝る前に頬を殴られて、朝起きて「昨日の夜、あたしの顔殴ったの覚えちゅう?」って聞いても「は? お前何言ってんの?」って真顔で言うの。はじめはシラを切ってるんだと思ってた。でも彼は本当に覚えてないの。
「この人、本当にヤバイんじゃないかな...」
 そう思ったけど、あたしはたっちゃんと付き合ってた。だって本当に、暴力を振るってた時がウソのように、優しいときはとことん優しいの。そんな一面を知ってるからたっちゃんと別れる事ができなかった。たっちゃんはきっと、ちょっと変わってる人なんだ。ちょっと病気なんだって自分に言い聞かせた。
 気付けばたっちゃんに出逢って半年が過ぎ、季節はもう真夏を迎えてた。

 大学も夏休み後半に入り、あたしは久し振りに実家へ、そしてたっちゃんは地元の静岡へ帰った。「しばらくたっちゃんに会わずにすむ...」あたしは何となくホッとしてた。家で妹とテレビを見てると、携帯が鳴った。たっちゃんかも... と内心ドキドキしながら電話を開き、着信画面を見てもっとドキッとした。アミちゃんだった。
「もしもし...」
「あ、サオリー? あんた帰って来ちゅうらしいやん。今からちょっと会えん?」
 アミちゃんに会うのはいつ振りだろう...。最後に連絡を取ったのは、たっちゃんに初めて会った次の日だった。もちろん、付き合ってる事はアミちゃんには言ってない。ま、どうせあの2人は終わってんだし、この際付き合ってる事報告して、暴力の事相談してみようかなぁ。そう思って出かける準備を済ませ、近くのファミレスに行った。先に着いたのはあたしの方で、少し待ってアミちゃんが来た。ピンクのチューブトップに白のミニ。相変わらず派手だ。
「ごめんごめん。遅くなってー。超久し振り。元気しよったぁ?」
「元気で。アミちゃん学校ちゃんと行きゆう?」
 しばらく他愛無い話しをし、一瞬間が空いた時だった。いきなりアミちゃんがテーブルに肩肘をついて顔をグイッと前に出してきた。
「てかよー、あたしタツヤと遊んであげてって言っただけで、別に付き合っちゃってとはあんたに頼んでないがやけど」
 ヤバイ。全身が冷たくなっていくのが分かった。この人、あたし達の事知ってる。
「え? 何が?」
 あたかも何も知らないみたいに聞き返す。
「何がじゃないろー? あたしが何も知らんとでも思うちゅうが? あたしらまだ一応終わってないがやけど。まぁ、確かにあん時はちょっとヤバかったけど、あたしとタツヤはまだ付き合いゆうが。意味分かる? 最近タツヤとあんまり会えんなったと思ったら、あんたんとこに入り浸りらしいやん。で、あんたらがあの日から付き合いゆうってこの前タツヤの友達に聞いてよ、ビックリしたわねー、マジで」
「だってアミちゃん好きな人できたって言うたやん...」
「好きな人は別に何人おってもかまんろ? そんなんあんたに関係無いし。それにあたしタツヤと別れるとか言ったけ? てかあんた何様? あれ以来連絡も一切してこんし、超感じ悪いがやけど。絶対取り返すきね。覚えちょきよ」
 そう言い放ってアミちゃんは店から出て行った。しばらくあたしはその場から動く事ができなかった。てっきり別れてるんだと思ってた... 会ったその日に告白されて、付き合って2ヶ月で暴力を振るわれ、半年経った今、二股だったと判明...。あたしバカみたいじゃない? そう考えたら何だか笑えてきた。あたしってほんと、たっちゃんにとって何なんだろう?
 地元にいる間はずっと家の中にいた。外に出ればアミちゃんに会うかもしれない。そう考えただけで怖かった。あの時のアミちゃんの顔... きっとずっと忘れない。男を取られた女ってあんなに怖い顔するんだ... そんな事をずーっと考えてた。たっちゃんからは毎晩電話がかかってきたけど、彼はいつも通りだった。アミちゃんはあたしに会った事をたっちゃんには伝えてなかったみたい。あたしもあえてアミちゃんの事は言わなかった。言ったらまた彼の機嫌を損ねて殴られるだけだから...

 夏休みがあけて、いつも通りの日が帰ってきた。相変わらずたっちゃんはあたしの家に居座ってた。暴力を振るわれ始めてからというもの、ただでさえ彼の事が信じられなくなってたのに、二股をかけられてたという事まで知って、あたしの中で彼はもう何ものでもない存在だった。彼氏でもなければ、男友達でもない。そう、赤の他人。

 別れたい。
 この人から離れたい。
 逃げたい。
 そんな事ばかり考えてた。あんなに好きだったのに、今はたっちゃんが怖くてしょうがない。次はいつ殴られるんだろうって、ビクビクしながら毎日暮らしてた。

 だからあたしは逃げた。

 ちょうど肌寒くなってきた10月のある日。朝6時に家を飛び出した。彼が寝てる隙を見て、とりあえず大事な物だけバッグに詰め込んで、逃げた。行き先なんか決まっていなかったけど、とにかく彼の側から離れたかったから、そんなのどこでも良かった。結局事情を知ってる男友達の家に転がり込んで、一ヶ月の間学校も休んだ。もちろん、独占欲が強く、プライドが高いたっちゃんがそんなの許すはずがない。幸い、その男友達の事をたっちゃんは知らないから、家まではやって来なかった。でも、彼のことだからそんなのすぐに調べ上げ、いつ見つけられるのか... そしてどんだけ殴られるのか... 怖かった。とにかく怖くて、その日から鳴りっぱなしだった電話も無視し続けた。放ったらかしにして来た家の事も気になったけど、もう二度と彼の顔は見たくなかった。たっちゃんと離れてみて、ようやく自分がどれだけ彼に脅えて暮らしていたのか実感した。あれだけ鳴りっぱなしだった電話も時間が経つと共に鳴らなくなり、あたし達はようやく終わった。

 あれから3年経ったけど、アミちゃんとたっちゃんはまだ付き合っているらしい。あたしが家を出てから、たっちゃんはかなり荒れて、すごく痩せたって誰かに聞いたっけ。アミちゃんとはあんなカタチで絶交しちゃって、もう二度と連絡を取る事は無いだろうけど、やっぱり昔からの友達だもん。あたしみたいに殴られてなければいいけどな...。

(2005年9月号掲載)